Leaf Linkage Laboratory/代表竹田葉留美氏

臨床心理士としてLINK・心の健康・学びの場所・居場所づくりを提供する

八洲学園大学准教授として、八洲学園大学やその他の大学とも合わせ年間約900人の学生に講義しながら、公認心理師/臨床心理士として現代社会のこころの病の予防的な視点からアプローチするLeaf Linkage Laboratory代表竹田葉留美氏にお話を伺いました。
Leaf Linkage Laboratory/代表竹田葉留美氏

留学に行く前に何か出来ることはないのか?“留学”から興味を持った心理学

「結構いい年齢になってから大学院で学びました!」と笑顔でお話してくれた竹田さん。当初は、留学の代理店に勤務しており、留学カウンセラーとして、留学生のサポートをしていたそうだ。「留学に行った人が、元気に行って元気に帰国してくれれば良いのですが、留学先の生活トラブルやホストファミリーとの不仲、本人の英語力不足など、色々な問題が原因で現地に適応出来ず、こころやからだの調子が悪くなってしまう方もいらっしゃったんです。もちろん何も問題なく元気に楽しんでいる留学生の方が多かったのですが、なかにはカルチャーショックから立ち直れず、精神的に落ち込みこころの病になってしまう留学生もいました。このようなトラブルは、「クレーム」として返ってくることもあって、これらの対応も留学カウンセラーが行っていました。留学カウンセラーは、自身も楽しかったり苦しかった経験があることから、なおさら一生懸命関わってしまう事が多く、その思いが伝わらないことが重なるとバーンアウトしてしまう、というケースもしばしばあったんです。」
当時この状態が、双方にとってよろしくない状態だと感じ、「留学に行く前に、もっと何か出来ることがあるのか?」「現地に適応し、有意義な留学生活を送れる人と、現地に適応できず、つまらない苦しいだけの留学生活になってしまう人との違いは何なのか?」「もっと、予防的に関わる事が出来るのではないか?」と考え、しっかり心理学やカウンセリングを学んでみたくなり、大学院で研究することになったそうです。
この異文化での適応/不適応のテーマは、現在、企業での新入社員、異動や企業統合の際の従業員のメンタルヘルスの研修に活かされているそうです。

臨床心理士学と社会心理学のコラボ:観光心理学からメンタルヘルスを考える

「一生の中で、一番勉強したかも知れません。」大学院修士課程では、臨床心理士という民間資格を取得しました。臨床心理士資格は、数ある民間の心理学関連の資格が存在する中で、知名度、難易度がともにもっとも高いものとされている資格です(現在は、公認心理師という国家資格もあるそうです)。修士課程修了後、社会心理学も勉強したくなり博士後期課程では千葉大学へ行きながら、スクールカウンセラーとして小学校に勤務していました。「スクールカウンセラーというと児童が対象?と思う方が多いですよね?でも実はカウンセリングするのは、ほとんど教員で、次に保護者だったんですよ」。児童の対応でどうしたらいいのか?などの悩みが尽きなかったそうです。
社会心理学は、個人に対する社会からの影響や相互関係を心理学的に捉えることをその目的とする学問。「その時の指導教官が、色々な事に挑戦させてくださる教授で、社会心理学と臨床心理学をうまくコラボできないか?などと話しもしていました。」その中で生まれたのが観光心理学でした。「今でこそ話題になっていますが、まだ健康経営などの取り組みがない時代でした。しかし、従業員の気分障害、代表的なものとしては、うつ病は増加している。こころの病気になってしまうと、会社の生産性が落ちるのは事実。企業側には、生産性も向上させつつ、従業員が健康的に業務が行えるように安全配慮義務も課せられています。従業員の多くは、仕事の量や質、職場の人間関係、毎日変わらない家と職場との往復でストレスを抱え、疲弊しています。社会心理学や臨床心理学の研究の中には、休むことで効率が上がる休憩効果や普段の生活と違う環境に身を置くと、心身が刺激され元気になる転地効果というものがあります。旅行はとてもいいリフレッシュが出来る事を私たちは経験的に知っていますし、それならば観光・旅行とメンタルヘルスと健康経営を組み合わせて行こうではないか!という話しになり、現在もその研究に取り組んでいます。」
「特に予防が大切だと考えています。日本人はオンオフの切り替えがとても苦手なので、半ば強制的にオンとオフを変えないといけませんし、意識的に仕事との距離を置くことが大切だと思います。だからこそ、土日などの休日に出かけて、いつもと違う非日常を体験して、五感を活性化させ、意識の転換が出来る、そしてこころもからだも元気にするメンタルヘルスツーリズムを押し進めていきたいと思います。」
メンタルヘルスツーリズムでは、意識の転換、五感の活性化を重要視している。日常の生活を淡々と過ごす中で、私たち自分の感覚はだんだんと鈍くなっていきます。どこかに出かけて、風の爽やかさや日差しのまぶしさ、土のあたたかさや森林の香りなどで、五感をフル活動させることがとても大切だということだ。千葉大学の研究室で行ったプロジェクトで、土日に旅行した人と、旅行をしなかった人を調査したところ、「家でゴロゴロしていた人より、旅行に行った人の方がストレスの数値が断然下がっていたんですよ。ポジティブに休む、ポジティブ・オフを活用して働く人たちのこころとからだの健康を予防していくことが可能なのです。」


人・知識・スキル・仕事をつなげていき、学びの場所を作る

「色々な取り組みを行っている中で、たくさんの人とつながる事が出来ました。人とつながると面白いことが出来たり、新しいことを知ったり、刺激をたくさん受けます。つながりを作っていくことは、それだけでなく健康でいられるというメリットがあるんです。これをソーシャルサポートというんですけどね。」ソーシャルサポートとは、“社会における人とのつながりの中でもたらされる、精神的あるいは物質的な支援であり、この支援をうけることがストレスを緩和する効果をもたらす”と考えられているそうで、社会的な支援をたくさん受けることでストレスを軽減でき、孤独を回避することができるので、元気でいられるということだそうだ。「同じ会社の中でも、元気にやっていける人と行けない人の違いは、このソーシャルサポートがあるかないかが非常に大きく影響するのです。」経営者は孤独を感じることも多いし、ましてや個人事業主であればなおさらだ。「他業種などの横のつながりも必要ですし、年齢の上下の方に繋げて行く事、リンクしていくことも必要です。知識やスキルなどもしっかり伝えて行くことが大切だと感じています。」
院生時代は、勉強したくても心理士ではまだない院生が参加できる勉強会が少ない、お金がなくて出来ない(勉強会や研修会、本代などものすごくかかる!)、自主的な勉強会をするにしても場所がなくて出来ないこともあるそうだ。「臨床心理士のグループ・スーパービジョンなどの勉強会は、学生が入れない場所もたくさんあって、そのような勉強会もLeaf Linkage Laboratoryでは、積極的に学生も入って勉強をしてほしいと思っています。」
臨床心理士同士の勉強会を主催で開催し、キャリアがある心理士から学生までが学べる場を提供したい。孤独感が一番精神をむしばむ。心理士は孤独な仕事が多い。どこかに、自分の帰れる場所が必要だと話す。
Leaf Linkage Laboratory/代表竹田葉留美氏

今後やりたいことは何ですか?

「いくつかありますが、まず臨床心理士/公認心理師なので、こころの健康を守るということでカウンセリングをすることも積極的にしていきたいと考えています。最近は早期退職、役職定年などもあり、キャリアに関する相談も増えています。キャリアカウンセリングも積極的にしていきたいですね。それから子どもや高齢者の虐待までは行かないけれどもひとりぼっちでいるという、孤独は大きな問題だと思います。彼らの持っている力を活かす場を作りたいと考えています。また、研究機関としての役割、研究者としていろいろな調査や測定をして個人や企業のお役に立ちたいという思いもあり、地域振興、地域活性などに繋げていきたいと考えています。」
目の前にある人生100年時代、どのようにいきていくか?という問題がある。
「キャリアをどう築くかは、今後大きな課題だと思います」。人生100年と言われたら、60歳で定年退職して、まだあと40年ある。残りの40年、所属する場も役職もなく、今まではあったものがない状態で生活をしていかなくてはならない。「キャリアは人生です。キャリアを考える時、仕事を何にするかではなく『人生をどうやって設計するか』の方が大切なのです。アイデンティティ、自分は何者なのだろう?何がしたいのだろうか?と考えることが大切です。」自分はこういう人間、だからこそ、こんな人生を送りたい!しかし、我々には自分が何物者であるか?を考えなければいけないが、考える機会もない。就活をするときに自己分析などをするが、人生設計の自己分析ではなく、いかに会社にマッチさせようかと考える自己分析なので浅いものになりがちだ。
「そしてやはりこころの病への予防です。知識を付けてもらうのが一番、中途半端な知識で思い込んでしまうのはとても危険です。正しい知識を持ってもらいたいので研修やセミナー、もっと敷居を低くしてお茶などを頂きながらのお話会を開催していきたい。残念ながら企業は、精神疾患やメンタルヘルスの不調者がいることを隠す、見て見ぬふりをする傾向がまだあるように思います。またメンタル疾患への偏見やカウンセリングへの敷居が高いと思っている方が多いので、その意識を改善できたらと考えています」。企業への訪問カウンセリングにも行っているということなので、まずは研修などから入ってみるのもよいかもしれない。

濱街沿線ダイアリーで何か出来ることはありますか??

「ピアカウンセリングという同じ背景をもつ仲間同士が対等な立場で話し合うカウンセリングがあるのですが、あまりにも近しい仲間同士だと言えない、知らない人だけれど、同じ境遇の人ならば話せる、というような場所づくりを提供したいと考えています。濱街沿線ダイアリーは女性の読者も多いので女性同士が話せる場をコラボ出来たらと思います。仕事をしていると、何がどう転がって嫌な方向に行くかわからない。うまく行っているはずだったのにあれ?と、瞬間で変わってしまうことがありますよね?そんな時、ちょっと愚痴ったり、アイデアをもらったりできる場があったら安心ですよね。働くお母さん、お父さんたちは基本頑張り屋さんが多いので、自分の頑張りをどこでセーブするのか?休むことも必要だし頼る事も大切。そんなことが自然に出来る場所が出来たらと考えています。ちょっとみんなで集まって、話しが出来る、悩みが解決できる、自分が自分でいられる場所、自然にふるまえる居場所が理想です。」
Leaf Linkage Laboratory/代表竹田葉留美氏


濱街沿線ダイアリー
https://blog.hama1.jp/

記事・写真:細山麻実